上白木 悦子教授のインタビュー

上白木 悦子教授

緩和ケアと終末期医療に寄り添う医療ソーシャルワーカーの役割

私たちは,はたして自分の意思の通りに人生の最期を迎えられるだろうか?その問いを探究し続けているのが,社会福祉実践コースの上白木悦子教授.業界に光を投じる論文が評価されています.

どんな世の中を願いますか?

誰もが尊厳をもって生きていける社会

「最期」のあり方を考える

上白木教授が研究を始めたきっかけは,医療ソーシャルワーカーとして活躍していた時代,病院のフロアで遷延性意識障害の患者の現実を目の当たりにした経験にあると言う.「食べる物も着る物も,全て自分で決めて生きてきた人が,最期の時だけ第3者に意思を委ねなければならない場合がある.そこに違和感があり,終末期とは何か,そして人権や尊厳とは何かを考え続けてきました」.長年,患者を中心としながらその家族や友人,医療ソーシャルワーカーにもアンケートやインタビューを実施.近年は終末期を迎える障がい者にも対象を広げている.その内容から,緩和ケア・終末期においてソーシャルワーカーが果たせる役割を初めて体系化し,2019年に日本社会福祉学会奨励賞(論文部門)を受賞した.論文の中では,緩和ケア・終末期の患者に対してソーシャルワーカーが遂行できる5つの役割が示されている(図1).中でも意思の確認ができない患者の意向を「代弁」することや,医療方針の決定の支援,そして厳しい局面での精神的サポートが他分野のソーシャルワーカーに増して求められるという.そのあり方については,今後,議論が必要とされる所だ.近年,リヴィング・ウィルやACP(※1)の準備が薦められるようになったが,「やり方が分からない」「縁起でもない」という意見はまだ多い.「意思決定を強制すべきではありませんが,まずは諸外国のように国全体でディスカッションする機運が高まると良いですね」と展望を語る.


図1=緩和ケア・終末期医療における医療ソーシャルワーカーの役割遂行の構造に関連する要因の関連性(2018)
※1=Advance Care Planning.将来的な医療やケアについて本人と家族,医療機関が話し合い意思決定をすること

地域共生社会の実現に向けて

現在,大学院福祉健康科学研究科では,大分県から受託した「地域共生社会の実現に向けた実務者ネットワーク構築事業」を進めており,上白木教授もこれに携わっている.県内18市町村から課題を吸い上げ,よりよい支援体制を構築していくのがミッションである.子どもや高齢者ばかりではなく,ホームレスや元受刑者まで,ソーシャルワーカーの支援対象は本当にさまざま.地域で生活する全ての人が,どうしたら生きていきやすいか?その問いを深められるのも福祉健康科学部で学ぶ醍醐味だ.「研究は,結果を出すことがすべてではありません.社会の声を拾うプロセスにこそやりがいを感じています」. 多様性やジェンダーという言葉が溢れる昨今,当事者たちがその話題の中でしか発言できない世の中ではなく,誰もが尊厳を保ち,当たり前のようにコミュニケーションが取れる時代になってほしい」と願う上白木教授.大学でも女性の活躍が進む中,自身も役職者として奮闘中.「失敗も含めて私の姿を見て,学生たちが“自分の思いを発信すること”の大切さを感じ取ってくれたら嬉しく思います」.

▲日本社会福祉学会奨励賞の授賞式.「患者さんや医療機関の方々の協力のおかげ」と上白木教授
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